「バレなければいいのか」
不安な出だし
A社の会議に呼ばれました。
事前にテーマを聞いても、「来ていただいて説明します」というだけで予備知識なしです。
部屋へ入ってみるとみなさん、難しい顔で腕を組んでいます。半日、議論をしたけれど結論が出ないのです、との話です。
「そんな複雑な会議がはじまるの?」と不安が走りました。
公表してしまった
お聞きしてみると、ある発明を出願する前に公表してしまった。しかも6か月以上も前に(公表から6か月以内なら救済措置があります)。
話がこれだけなら簡単です。
「特許は無理ですね。技術を変えて新しい発明を出しましょう。」で終わりです。
発注者が絡んでいた
ところがそう簡単ではなかったのです。
その発明は某役所とA社の共同開発だったのです。
その役所はA社の大切なお客様、ウヤムヤにすることはできない。しかもあちらは特許化に乗り気です。
いまさら、「実は事前に公表してしまいまして・・・」とは言いにくい。
大きな規模の発注者でもあるから、A社には関係する部署が多く、意見がまとまらない、どうしたら?という経過でした。
公表の状況は?
実際の公表はある小規模な学会への発表でした。
A社だけで単独で発表してしまったのです。
そこでA社は、こう考えました。
今回の発明は特殊な先端の技術の学会なので会員数も少なく、発表した講演会での出席者は十人程度だった。
だから特許庁も情報を入手してはいないだろう、拒絶理由には引っかからないだろう、という対策です。
そんな意見もあって結論が出なかったのです。
バレないでしょう。しかし・・・・
それを聞いて、「これじゃあ事前に電話では説明できなかったのか」と理解しました。そこで山口特許事務所の見解を述べました。
「状況をお聞きすれば、多分バレないでしょう。これから出願して特許になる可能性もありますね。」とみなさんに一安心してもらいました。
そしてホッとした皆さんの前で続けました。
「審査官をだました罪」というのがあるのですよ。
(詐欺の行為の罪) 197条 詐欺の行為により特許・・・を受けた者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。 |
この条文によれば、意図的にウソのデータを作るなど、特許庁をだまして特許を取った場合には、サギ罪として個人なら逮捕されたり、法人なら罰金が科されます。
それよりも大企業の場合には社会的な制裁が大きいですね。
立証できるか?
ただしこの条文が使われるケースは少ないようです。なぜか?
サギは故意犯だから、審査官にしろ第三者にしろ「サギだ!」と立証することが困難だからです。
しかし今回のA社の場合はどうでしょう。
先日の学会発表はA社の名前、今回の出願人も同じA社、しかもA社には知財を管理する部門もある。
とすればA社はこの発明が新規性を喪失していることを知りながら、「特許庁をだまして特許を取った」と判断される可能性は高いですね。
議論はなんだったんだ
ここまで説明したら、さすがみなさんすぐに結論が出ました。「役所に全部説明して謝ろう!」と。
発注者の顔を立てた、ところがその代償として、「サギを働いた会社!」として新聞、テレビに報道された、という場面が目に浮かんだようです。「午前中の会議はなんだったんだ」という発言が印象的でした。
こんなアドバイスは、条文を知っているかどうかもさることながら、「利害に関係していない第三者だから気軽にできることだなあ、」と感じた次第です。
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