「立体商標を手に入れろ!」
山口特許事務所が代理した「コショー挽き」の立体商標が登録になりました。
これは商品の本来の形に識別力が認められたはじめてのケースといわれて話題になっています。
事実この案件は、出願人が、
「別の特許事務所に相談したら無理といわれたがなんとかならないか?」
という経過から弊所で引き受けたものでした。
どこが始めてのケースなのか?なぜ、話題になるのか?
その背景をご説明します。
- 従来の商標の概念
従来の「商標」とは、「ソニー」「グッチ」「カローラ」のように、商品に張り付けたり印刷してある平面的なネーミングやデザインでした。
消費者は、そのような名称を読みとって他の商品との違いを知り、さらに製造元を理解して、購入していました。そのように、従来は商品に「付する」平面的なものが商標でした。 - 三次元商標の採用
しかし、商品に張り付けたりするのではなく、商品の宣伝用人形、商品の容器、商品そのものの形状、商品の一部の立体形状などにも商標としての機能がある場合もあるのでは? という意見が出てきました。
いわば、立体物を見た場合に、あたかもそこに平面的に書いてある文字を読み取り、発音するというイメージです。
例えば店頭に立っているサンダース人形を見て、「ケンタッキー」の文字が、「フライドチキン」という商品と同時に浮かんでくるでしょう。
看板ではなく商品そのものの場合でも、曲線を使ったビンを見て「コカコーラ」の、ひよこ型の饅頭を見て「ひよこ」の、万年筆のクリップの矢印を見て「パーカー」の文字が浮かんでくるでしょう。
そこで米国やヨーロッパの主要国では、20年ほど前から「三次元商標」として立体商標を認める制度ができていました。 - 日本での現状
そうした国際的な背景を受けて、日本でも平成8年から立体的な形状にも「識別力」があれば登録を認める制度、すなわち「立体商標」の制度がスタートしました。
そして不二家のペコちゃん人形、ケンタッキーのサンダース人形、コカコーラのビンなどが登録になりました。
それらは、(1)商品の形状と、立体商標の形状はまったく違っている、(2)あるいは長年の使用で有名になっている、から登録が可能でした。
- 識別力がない
このように日本では制度として認めたものの、よほど有名になったものでない限り、登録されるケースは少ないのが現状です。
ほとんどの出願は、「その商品の形状を普通に用いられる方法で表示するに過ぎない」との理由で、それこそ軒並み、拒絶されています。
例えば、ウイスキーのビンに切り込みやへこみ、各種の線を入れたものを立体商標として出願しました。しかし、「切り込みやへこみなんて、ビンの持ちやすさや、美感を高める程度に変形しているだけじゃないか。」「識別力がないよ。」と判断されて拒絶されてしまうのです。
「サントリーの角瓶」のように、「長年使って有名な形状だから例外扱いで登録を!」、と頼んでも、「有名になったのは「サントリー」という文字があるから。容器の形状自体にそんな識別力はないよ。」として拒絶されるのが普通でした。
- 「コショー挽き」の場合
そんな背景の中で、弊所の扱った「コショー挽き」立体商標は、有名性などの特例を受けずに、しかもコショーの容器の形状のままで登録されたものです。
(繰り返しますが、それまでの立体商標は、商品は「フライドチキン」、商標は「サンダース人形」というよう商品と立体商標はまったく別の形態です。)
この案件は他の事務所では、「反論しても勝てない」、とのことで代理人が反論をあきらめてしまった案件でした。
しかしあきらめきれない出願人は、弊所に依頼してきました。
- 弊所での反論
弊所で審判で争いましたが、その段階でも一度は「その商品の形状を普通に用いられる方法で表示するに過ぎない」と指摘されました。
しかし意見書では「普通の形状だというけれど、それでは聞きましょう。審判官殿、あなたはどこからコショーの粒を入れるか分かるんですか?」と反論しました。
それ以外にもパリ条約の「外国登録商標」まで持ち出して多数の論点で反論しました。
その結果、「なるほど、このウサギの頭では、これがコショウを挽くものとは思えないネ。」という判断がなされ、登録されたものです。
すなわち、「コショー挽きの用途、機能から見て予想しえない特異な特徴を備えている。
だから普通に採用するコショー挽きの形状の範囲を超えている」、との結論でした。
このように、有名であるという例外によらず、「商品」がすなわち「商標」という最初のケースと評価されましたが、この判断が今後の立体商標の審査のどのように影響してゆくか楽しみです。