「工事差し止め」
- 斜面が崩れたら
道路のわきの斜面が崩れたら走行中の自動車にも、通行人にも大きな被害が及びます。
巨岩がドッと崩れて来たら、と考えると怖いですね。
そこで斜面の崩壊を防ぐために多くの技術が開発されています。
その一つが、斜面を網で覆って、崩れた岩石の転落を防ぐ方法です。
しかし金網を張っても問題がありました。
金網を破って岩が崩れてくる場合があるからです。
その問題を改良した方法が特許になっていました。
網で覆うだけでなく、その金網の上に簡単な部品を配置して固定してしまう方法でした。
- 工事前に内輪もめ
A社は斜面の復旧工事を得意とする会社で、ある道路の災害復旧工事をその特許権者と共同で請け負いました。
ところが特許権者は人手不足という事情があって自分で工事に参加できなくなりました。
いろいろもめたようですが、結局A社だけで工事をやることになりました。
しかしそれでは特許権者は自社の利益が得られないから面白くない。
そこで工事が始まるや、特許権者はA社に対して「特許権の侵害だから工事を中止せよ」という警告書を送ってきたのです。 - 相談を受けて
弊所では警告が来た段階から相談を受けました。
地元の特許事務所で相談したら、反論できないから中止するしかない、と言われた、しかし工事を止めるわけにはいかない、何とかならないか、ということで、知人を頼って弊所へたどり着いたのです。
そこで特許権の分析をしてみましたが、確かに「特許請求の範囲」の構成要件が少ない。
構成要件が少ないということは、権利の幅が広いということで、それから逃れる方法が見つかりません。
もちろん無効理由になる公知技術を探しましたが、それも簡単に見つかりません。
しかも回答は10日以内に、と言ってきています。
わざわざ遠方から東京の弊所まで相談に来ていただいて、「やっぱりダメですね」では申し訳ない、何とかならないか、と考え続けました
- ひらめいた!
そこでひらめきました。
そうか、この工事はなんのためだったろう?「災害復旧工事」だった。
ということは、「工事を中止しろ!」ということは、何を意味するか?
災害で斜面が崩れたままにしておけ、ということ、二次災害が起きてもいいんだ、と主張していることになります。
そこでさっそく本社の社長宛に直接、文書を送りました。
「貴社は災害復旧工事を差し止める会社なのですね。この事実が報道されてもいいのですね。人災が起きたら責任は取ってくれるのですね。」と。
すると二日後には支店長が工事現場に飛んできました。
そして現場事務所へ入るやいなや大きな声で言ったそうです。
社長の命令だったのでしょう。
「特許侵害は追及しません! すぐに工事を再開してください! 災害が起こらないように急いでください!」
毎回このようにうまく行くとは限りません。
特にこのケースでは入札前には両者は友好関係にあった、その後、反目する関係になった、という特殊な状況にありました。
しかし我々は、たとえどんなケースであっても、「やっぱりムリですね」という回答はできるだけ避けたい、と勉強を続けています。