ジョージア事件 「商品の産地表示のみからなる商標」とは何か

ジョージア事件
「商品の産地表示のみからなる商標」とは何か、が争いになりました。

ジョージアとは

ご存知の通り「ジョージア」とは日本コカ・コーラの缶コーヒーのブランドで、各種の調査でたびたび一位を獲得しています。
最初の製品は昭和50年の発売で、現在「オリジナル」と称している単一の商品でしたが、昭和60年代になって多くのデザインを含めてシリーズ化したそうです。
この名称は、コカ・コーラの本社のジョージア州に由来しますが、商標の争いではその州の名称との関係が問題になりました。

下図の通りジョージア州はアメリカ合衆国の南東部にあり、州都はアトランタ市。コカ・コーラやCNN、アフラックの本社などがあることでも知られています。


商標「GEORGIA」の出願

さて、そのジョージア州のザ・コカ・コーラ・カンパニーが昭和50年5月に「GEORGIA」と欧文を横書きした商標を出願しました。
指定商品は「紅茶、コーヒー、ココア、コーヒー飲料、ココア飲料」としましたが、審査、審判で拒絶されました。
審決で拒絶された理由は次の通りですが、審決ではまず州としてのジョージアを、その産業を含めて次のように説明しました。

本願商標を構成する「GEORGIA」の欧文字よりは、アメリカ合衆国南東部の州を指称する「Georgia」(ジョージア)を容易に想起せしめるものであり、該州が紡績、織物などの繊維工業がアメリカ第三位の生産額を有する最重要工業であって、これに次いで食品加工業等が盛であることは、多くの辞典などで認められる。
そして該州に現在食品加工の製造、販売を業とする企業の存在することは、「外国会社年鑑1981年版」の「アメリカ編食品」の項の記載においても認めることができる。

すると本件の商標は、どう判断されるか?

したがって、「GEORGIA」の文字を書してなる本願商標は、これをその指定商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、前記の事情から容易に、該商品がアメリカ合衆国ジョージア州で製造された商品であることを表わしたものと認識するに止まる。
自他商品の識別標識としての機能を果す文字とは認識しえない。

このように「GEORGIA」の文字は、コーヒーなどの製造地を表すだけであり、自他商品を識別する機能を果たしてはいない、というのが審判の結論でした。


高裁でのコカ・コーラの主張

この審決を不服として争ったのが本件ですが、出願人のザ・コカ・コーラ・カンパニーはどんな主張をしたのでしょうか。

  1. 地名と産地との関係
    コカ・コーラは高裁において次のように、審決の誤りを指摘しました。
    本願の「GEORGIA」の指定商品は、紅茶、コーヒー、ココア、コーヒー飲料、ココア飲料であるところ、アメリカ合衆国のジョージア州はこれら指定商品の産地ではない。
    審決がその判断の根拠として挙げた文献にもジョージア州が紅茶、コーヒーなどの産地であることを示す記載は全くない。
    したがって「GEORGIA」の文字が紅茶、コーヒーなどに使用されても、取引者、需要者が「GEORGIA」の文字をもってジョージア州で製造された紅茶、コーヒーなどであることを表わしたものと認識することはない。その裏付けの一つとして、他にも同様の商標が登録されている例を挙げました。
    たとえ指定商品が生産販売されている土地の地名よりなる商標であっても、その地名が指定商品と特別の関係あるものとして一般に知られていないかぎり、特別顕著性があることはいうまでもない。
    現に、特許庁においても、アメリカ合衆国の州名であるMINESOTAミネソタ及びアラスカをはじめ、地名からなる商標を数多く登録している。
    このような事実からみても本願商標の登録を拒絶したことの誤りは明白である。
  2. 有名である、と主張
    それとは別に、「GEORGIA」の文字が缶入りコーヒーで周知になっている点を、次のように強調しました。
    本願の「GEORGIA」の文字は、日本国内において缶入りコーヒー飲料について使用されており、その具体的数量は、昭和50年から53年の間に225億円を超えている。
    その後、本願商標は、缶入りコーヒーのみならずインスタントコーヒー、ベンディングコーヒー、ポストミックスブラックコーヒー、ジョージアココアに使用されており、その発売以来昭和58年9月までの総販売高は、実に約2200億円に達するのである。
    特に缶入りコーヒーについては、コカ・コーラグループ会社の積極的な販売広告活動により発売以来年々販売高及び市場占拠率が高まって、昭和57年度には既にUCCコーヒーに次ぐ第二位のシェアを占めており、缶入りコーヒー全体の約5本に1本がジョージアのブランドで売られているのが現実である。さらに缶コーヒー以外の商品についても有名であることを強調しました。
    コカ・コーラグループはその積極的な販売促進活動を行っており、その一環としてジョージアブランドの販売促進物を種々開発している。
    たとえばライターケース、カードホルダー、キーホルダー、ハンカチ、ボールペン、シャープペン、コインホルダー、ソーイングセット、ペンシルケース等がある。
    また、自動販売機で販売されるジョージアブランドの缶入り飲料の中にはこれら販売促進物が当るラッキーおたのしみ缶が含まれており、このことでジョージアブランドの缶入りコーヒー等は極めて高い人気を博している。以上のとおり、本願「GEORGIA」の使用による特別顕著性の確立は明らかな事実であり、したがって、本願商標が商標として広く認識されたものとすべき根拠が不明であるとする審決の判断が誤りであることは明らかである、としました。

高裁の判断

以上のコカ・コーラの主張について、高裁は次のように判断しました。

  1. 地名との関係
    本願の「GEORGIA」の文字と州の名称との関係です。
    まず現在の日本人の認識度を次のように判断しました。
    Georgia(ジョージア)必ずしもそれが州の名を表わすものと正確に認識はしないとしても、これを少なくともアメリカ合衆国内の地名を表わすものと認識することは明らかである。すると商品と産地の関係は次のようにとらえられます。
    そうすると、ジョージア州において現実に本願の紅茶やコーヒーが生産されていないとしても、取引者・需要者はその商品がその地で生産されているかのように思うであろう。
    だとすれば、本願の「GEORGIA」の文字は、紅茶やコーヒーの産地を普通に表示する標章のみからなる商標であるといわなければならない。
    またジョージアという地名が「紅茶やコーヒーの産地を示すものではあり得ない」と考えられる特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
    したがって、本願の「GEORGIA」の文字と産地との関係に関するコカ・コーラの主張は採用できず、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした審決の判断は正当である、という結論でした。
  1. 有名か?
    まずコカ・コーラの販売実績を認めました。
    審決時には、発売以来の売上総額は1千数百億円を超え、缶入りコーヒーの市場占有率は20%以上となっており、本願商標の需要者の大部分は、本願商標が特定の業者の商品に使用される商標であると認識するに至っていた。
    その事実によれば、本願商標は、審決時に、指定商品のコーヒー、ココア、コーヒー飲料については、使用をされた結果需要者が何人(なんびと)かの業務に係る商品であることを認識することができるようになり商標法3条2項所定の要件を充足するに至っていたものであるということができる。とすれば、使用の結果有名になっていた、ということで「GEORGIA」の文字は登録を認められそうですが・・・
    本願の指定商品は「紅茶、コーヒー、ココア、コーヒー飲料、ココア飲料」だったことを思い出してください。そこで次のような問題が・・・。
    本願「GEORGIA」の文字を付した「紅茶」は販売されていなかったことが認められる。したがって少なくとも指定商品中の紅茶については、有名にはなっていなかったことが明らかである。するとどうなるか。
    出願商標の指定商品中の一部に登録を受けることのできないもの(本件の場合には紅茶)があれば、その出願は全体として登録を受けることができないものといわなければならない。
    その点、本願商標は、前認定のとおり指定商品中の「紅茶」について同項所定の要件を充足していない以上、紅茶を含めた指定商品全部にわたり登録を受けることができないものといわなければならない。
    このように指定商品から「紅茶」を別に分割したり、削除していないのだから、全体としての登録はできない、ことになります。

    そうすると、本願商標は商標法3条2項の適用により登録を受けることはできないとした審決の判断は正当であって、コカ・コーラの反論は採用できない、という結論でした。

なおその後、別に出願した「GEORGIA」など、多くの商品や役務について登録されていますので念のため。

第2055752号コーヒー,ココア
第2055753号コーヒー,ココア
第4460411号コーヒーを主とする飲食物の提供