商標権は独占権のはず。それなのに権利行使が認められなかった事件(コブラマーク)
抜け駆けした登録は信義に反する
商標権は独占権のはず。それなのに権利行使が認められなかった事件です。
商標権
コトブキ社は右の商標「KING COBRA」を持っており、一方、コブラ社は左の商標「COBRA」を持っています。ともにゴルフ用品の販売会社です
クラブの輸入
コブラ社が子会社を通じてゴルフのクラブを輸入しました。それには「KING COBRA」の商標がついていました。
そこでコブラ社は自分の商標「KING COBRA」の侵害だ、として訴えました。クラブの輸入を差し止め、廃棄、そして損害賠償です。
両者の背景
この事件の背景には両者の特別の関係がありました。
以前に、コトブキ社がコブラ社に特製のクラブの製造を注文しました。そのクラブに「KING COBRA」の文字、図形の商標を付けたいと希望して。
しかしコブラ社は「COBRA」商標を持っている。だからそれと似ている「KING COBRA」という商標で販売されては困る、という理由で交渉は中断していたのです。
その後交渉が再開し、コブラ社は、コトブキ社の希望とおり、「KING COBRA」の商標を付けたクラブの製造を引き受けました。
コトブキ社の抜け駆け
その後コブラ社が「KING COBRA」の商標を登録しようとしたところ、すでにコトブキ社が同一の商標を登録していた事が分かりました。
両者の交渉が中断していた時期に、コトブキ社が抜け駆けして「KING COBRA」の商標登録を受けてしまっていたのです。
裁判所の分析
争いの経過で次の事実が分かってきました。
- コブラ社は、コトブキ社の出願前から「COBRA」商標を使っていた。
- 「KING COBRA」商標は、「COBRA」商標の文字、図形からヒントを得てコトブキ社が出願したことは明らか。
- 「KING COBRA」商標を付けたクラブはコトブキ社がコブラ社に製造依頼したもの。コブラ社のシリーズと認めてよい。
- コトブキ社も、「KING COBRA」商標を付けたクラブを、「COBRA」シリーズの一環として販売したことがあった。
- 一方、コブラ社も「KING COBRA」商標を付けたクラブを、「COBRA」シリーズの一環として販売しつづけていた。
裁判所の判断
以上のような特殊な関係を考慮して裁判所は次のように判断しました。
- 両社の商標は似ている。よって侵害の可能性がある。
- しかし両者は製造を依頼し、受託する信頼関係にあったはず。その状態でコトブキ社が抜け駆けして「KING COBRA」商標を出願したことは信義則に反する。
- したがって、商標が似ていたとしても、コトブキ社の差し止めは信義に反するものであり、認められない。
信義則違反
最近は特許の争いにおいても「信義則に反する」として差し止めが認められなかった事件がいくつも見られます。
目の前の抜け駆けだけでなく、大所高所から見た信頼関係も大切にしましょう。