使い捨て製品のその後は? 「写ルンです事件」
消尽論
当然ながら特許権者から正当に買い取った製品には、買い取り後に特許権の主張をされることはありません。
喫茶店などでテレビで高校野球の中継などを流しているケースが多いですね。
その喫茶店ではテレビはちゃんとお金を払って電気屋さんから買ったのに、後にあってメーカーから「業としての使用だから展示するな!」とか「新たに実施料を払え!」といわれても困ります。
それでは特許権による二重取りです。
そこで、正当な特許権者であるメーカーが正当に販売したら、そこで特許権は消滅した、と解釈します。これが「消尽論」です。
寿命が来たら?
ではテレビの映りが悪くなったら、どうするか。普通は廃棄します。
だから廃棄したテレビを廃棄物処理場から掘り出して、特許権があるとかないとか、そんな問題は考えられないですね。
ところが、廃棄物にも特許権が残っているんだ、だから廃棄物を利用するな、お金を払え! という事件があったのです。
それが「写ルンです」事件です。
事件の背景
争いの対象はレンズ付きフィルム、いわゆる「使い捨てカメラ」です。
この製品に、富士写真フィルムは特許権を持っていました。
このタイプのカメラは、撮影が終わったら消費者は写真屋さんに持ち込みます。現像所では、カメラを解体してフィルムを取り出し、現像して送り返します。
では、解体した後の機体、残骸はどうするか? これは再利用できないから製品ではなく廃棄物ですね。
その残骸を買い取った会社がありました。その会社は廃棄物として投棄せず、その残骸にフィルムを詰め直し、蓋などをし直して、「トロウ君」などの愛称を付けて売り出したのです。5年間で6億円を売り上げました。
そこで富士写真フィルムでは特許権を侵害されたとして、2億4000万円の損害賠償を請求する裁判を起こしたのです。
富士の特許は下のように記載してあったとのことです。
撮影後にフィルムを取り出した後には再利用できないようにされた、レンズ付きフィルムユニット |
被告の反論
訴えられたケーアンドジェー社は、反論しました。
あんた「消尽論」を知らないの? 「写ルンです」は正当な権利者から消費者に渡った段階で特許権は消尽しているでしょう。だから当社の製品が富士の特許権に含まれているとしても、すでに特許権が消尽している製品を再利用したのだから、なにが悪いの?と。
さらに、富士は「写ルンです」を販売した段階で特許料を上乗せしてすでに利益を得ているじゃないか。だから廃棄物の再利用にさらに特許権を主張することは二重取りだ、とも。
裁判所の判断
結論は? 被告の負けです。4100万円の支払いを命ぜられました。
しかし残骸の元は消費者が正当に買い取ったカメラ、それも用途が終わって廃棄した、その残骸を再利用したのに、なぜ富士は損害賠償を請求できるのでしょう。
判決では、「『写ルンです』は、現像所で裏蓋をこじ開けてフィルムが取り出された時点で、社会通念上、その効用を終えたというべきである。」というのです。
ここで「効用を終えた」とは、フィルムを取り出した時点で、消費者が買い取った「写ルンです」は存在しなくなったということです。
買い取ったカメラが撮影するという効用を果たしているかぎり、すなわち同一性を維持しているかぎり、消尽論は成り立ちます。 しかしフィルムを抜き取った残骸はすでにカメラという効用を果たしていませんよね。
すると、あくまで製品がその効用を維持して流通する場合を前提にしている「消尽論」の範囲外なのですね。
そして前記したように富士の特許の範囲は「レンズ付きフィルムユニット」なので、フィルムを取り付けていない残骸のユニットもやはり、富士特許の範囲に含まれてしまいます。フィルムを詰めかえていようと、いまいと。
また特許料の二重取りについてはこういいました。
カメラとしての効用を終えた特許製品(「写ルンです」の残骸)に特許権の効力が及ぶと判断しても、(それは新らしい「写ルンです」なのだから)特許権者が二重の利益を得ることにはならない、と。
あまり発生しないケースだと思いますが、「消尽論」は慎重に・・・