文字は意匠の一部か?(カップヌードル事件)

[1]容器の意匠登録
カップヌードルの容器の意匠が登録されました。
下の図が登録された日清食品の意匠ですが、どこでも見かける人気商品ですね。

[2]特許庁での争い
この意匠権の登録に不満を持つ人物がいました。
彼が「この意匠は、出願前に似たものがあった。だから無効だ」と特許庁で争いました。
しかしその主張は通りませんでした。つぶせなかった、ということで日清食品の勝ちです。
その理由は次の通りでした。

日清食品の意匠の形状と似たような形状の容器が、出願前に公知であったというが、しかし日清食品の意匠は、横縞条の帯状及び文字などの図形が表されており、しかも文字もその構成態様に創作があり模様と認められる。
そうだとすると、日清食品の意匠は、模様などが存在しない公知の意匠に似たものとは言えず、登録を無効とすることはできない。

[3]高裁での争い
この判断に不満だった請求人は、特許庁での判断を取り消すために東京高等裁判所で争いました。
なんと今度は、日清食品が負けてしまいました。高裁の判断は次の通りです。

  1. 文字でも模様の場合もある
    まず「文字」でも模様として認める場合もある、ということを確認しました。

元来は文字であっても模様化が進み言語の伝達手段としての文字の本来の機能を失っているとみられるものは、模様としてその創作性を認める余地がある。

  1. ではこの場合は?
    では日清食品のカップヌードルの場合はどうか。
    残念ながら容器に描かれた「文字」は文字としての機能を失っていない、だから模様ではない、と判断されてしまいました。

本件意匠では、CUP及びNOODLEは、ローマ字を読むための普通の配列方法で配列されており、カップ入りのヌードルをあらわす商品名をあたかも商標のように表示して、これを見る者をしてそのように読み取らせるものであり、かつ読み取ることが十分可能とみられるから、いまだローマ字が模様に変化して文字本来の機能を失っているとはいえない。
だから、この文字は模様とは認められない。

  1. 「文字」が模様でないとどうなる?

特許庁の段階では、文字の部分が「文字本来の機能を失った模様」と見てくれました。
だから、出願前の似たような形状の容器が知られていても、その模様の部分に相違点がある、だから似ていない、無効ではない、と判断してくれたものです。
ところがそれは「模様」ではなく「文字」だとなると、今度はその部分は無視して判断する、ということなります。
読める文字を含めて意匠権を与えてしまうと、あたかも「カップヌードル」といった文字にまで独占を認めたと誤解されかねない、すると社会的な混乱を生じかねない、という理由です。(商標でもその商品の「普通名称」は独占できません。)
このように文字を無視すると、残るのは縞模様と形状だけです。
それなら「公知の容器と似ているじゃないか」ということになります。

日清食品はさらに最高裁で争いましたが、
そこでは「高裁の判断は正当。その判断の過程に問題はない。」と判断されました。
その結果、審決は取り消され、日清食品の登録は無効、と判断されたのです。

[4]文字を入れた意味は

形状や模様だけに独創性があれば、紛らわしい状態で「文字」を入れる必要はないでしょう。
しかし日清食品の意匠はどうでしょう。
見た通り、全体の形状、あるいは模様にはあまり独創性がないですね。
だからあえて図案化した文字を大きく入れて、出願前の公知の意匠との差異を出すつもりだったのでしょう。

ではなぜ「文字」だったのか?
文字として読んでもらえる効果も狙ったのですね。
そうでなければ、まったく別の、例えば「花模様」でも入れればよいわけで、文字にこだわる必要はないのだから。
このように、ある程度まで読み取り可能性を残し、かつ本来の機能を失っている、模様である、と見てもらうにはどう装飾するか、図案化の境界は難しいですね。