「きのうの敵は今日の友」
- 訴訟から
出だしは意匠権を侵害した裁判でした。
A社は、簡単な形状の意匠権が取れて喜んでいました。
そこで市場を探してみると、「あった!」。
ほぼ同じ形状の商品が市場に出ていたのです。
これほど似ているのなら裁判でも簡単なはず、勝利も目前でした。
ところが相手のB社は定石通り「無効審判」を請求してきました。
権利が「無効」になれば、訴えが根本から崩れます。
しかし市場に精通しているA社はそんな心配はしていませんでした。
何十年も専門業者として生きてきて、そんな形状の商品は見たこともないからです。
- 100年前にあった?
ところで無効審判では、A社の意匠は過去に知られていた、というのだから過去の文献などを特許庁に提出する必要があります。
では相手の出してきた文献は?
なんと98年前のフランスの特許書類で、その図面に同じ図形が描かれていたのです。
いわば古文書です。
確かに似ているけれど、別の品物では?と思って仏和辞典を引いてみると、なんとまったく同じ商品なのです。
これには参りました。
ここまでズバリだと反論のしようがないのです。
なぜそんな文献が見つかったか?
後でわかったことですが、B社の社長は、その技術分野の大学の先生と親しく、雑談の中で「ああ、そんなような商品を見たような気がするなあ。」程度から文献にたどり着いてしまったということでした。
これでA社の意匠権は無効となり、意気込んで始めた裁判も完敗となりました。
- 戦いが済んで
話は完敗では終わりません。
1件の意匠権は失ったけれど、A社は多くの特許権や意匠権を持っており、それらをまとめて30社以上にライセンスしていたのです。
このグループに加入した会社は、A社に実施料を払う代わりにグループ外の他社を排除して仲間だけで市場を独占できるというメリットがあります。
そんな背景があったので、戦いに負けて数か月後、我々はA社の社長さんに提案しました。
「今度はあのB社を仲間に取り込みましょうよ。」
冗談じゃない! あんな会社の社長と会うなんてとんでもない!
自分の権利のひとつが無効にされたのだから、社長が憤然と拒否するのもわかります。
幹部も同じです。
しかし言いました。「戦いは法律に沿って攻撃、防御をつくして負けたのだから納得しましょう。それよりも将来を考えて・・」
こんな説得を3回ほど繰り返しました。
そのうちに社長も幹部も徐々に理解が進んできました。
「B社と組むのもいいかなあ」「戦争は終わったのだし」と。
- きのうの敵を
B社と組む、ということはB社の持つ特許権や意匠権をグループが借りるということです。
するとグループの持つ独占権の数が増えます。
するとグループに参加している会社は、独占の範囲が広がります。
独占の対象がパソコンだけだったものが、今度は携帯電話まで独占できる、ということです。
A社としてもグループに参加してくれる会社の売り上げが上がれば、受け取る実施料も増えてきます。
またB社は、これまで数件の権利を持っていても、それをお金に換えること、すなわちライセンスというやり方を知りませんでした。
ところが権利をグリープに貸してあげることで、年間数百万円の実施料が入ってくることになりました。
みんなが仲間になって、三方が丸く収まったのでした。
特許事務所はこのように、特許戦争を進めるだけではなく、きのうの敵を今日の友に導く手助けもしています。