不正競争防止法「アメックス事件」

当事者は?

訴えた原告はクレジットカードを発行している米国の「アメリカン・エキスプレス・インターナショナル社」です。
この原告はアメリカでの設立は1850年というから江戸末期、日本では大正6年に横浜に事務所を開設しました。
日本国内での旅行小切手の売り上げは、問題の昭和54年では1億3000万米ドル、昭和55年以降はクレジットカードの発行を始めた、という広く知られている法人です。

一方、訴えられたのは日本の「株式会社アメツクス・インターナシヨナル」でした。よく見てください。大文字の「ツ」と、大文字の「ヨ」です。促音の「ッ」や拗音の「ョ」は使っていません。
ア・メ・ツ・ク・スとか、ナ・シ・ヨ・ナ・ルと発音するのです。
この社名だけを見ると国際的に活動をしているようですが、日本の「アメツクス・インターナショナル」とはどんな会社なのか、どの程度の規模なのか、インターネットや電話帳検索で探しても見当たりません。(平成28年2月)
しかし判決文によれば昭和55年1月に設立登記され、それ以来商号の「アメツクス」だけではなく、促音の「ッ」を使った「アメックス」などを使用して不動産業、広告代理業を営んでいたそうです。

そこで米国の「アメリカン・エキスプレス・インターナショナル社」が、日本の「アメツクス・インターナシヨナル社」を、不正競争防止法を基に、その名称の使用の禁止、商号登記の抹消等を求めて、平成2年に東京地方裁判所に提起しました。


使用時期は?

この争いで問題は「アメックス」の使用開始の時期でした。
というのは、原告は正式名称の「アメリカン・エキスプレス」を使っていたけれど、「アメックス」という略称は使っていなかったからです。
原告自身が「アメックス」の名称の使用を開始したのが昭和61年以降であって、被告の設立、使用の開始が昭和55年ですから、それよりも6年後ということになります。
ただ救いがありました。原告は新聞、雑誌などの記事などで「アメックス」として紹介をされていた、というのです。
最初は昭和51年9月の日経産業新聞に「米アメックスの旅行用小切手が・・・」という記事でした。促音の「ッ」です。
その後に被告が商号を登記した昭和54年末までに10回ほど、一般紙、ビジネス雑誌に「アメックス」として掲載されました。
ただし前記したようにこれらの記載は原告本人の使用ではなく、第三者による使用だったのですが。(原告自身の使用開始は昭和61年)


登記と使用時期の関係
以上を整理すると、被告の登記と、原告の「アメックス」の使用の前後関係は以下のようになります。


他人の使用でいいの?

東京地方裁判所は原告の請求を容認したので、負けた日本のアメツクスは東京高等裁判所に控訴し、さらに最高裁判所に上告しましたが、同裁判所も平成5年12月16日に上告を棄却しました。
そこでは、原告が自分から略称の「アメックス」を使用開始した時期が、被告の設立よりも後であった点について次のように判断しています。

不正競争防止法1条1項2号にいう「広く認識された他人の営業であることを示す表示」には、営業主体がこれを使用ないし宣伝した結果、当該営業主体の営業であることを示す表示として広く認識されるに至った表示(自分で宣伝したこのタイプが通常の状況です)だけでない。
本件のように本人ではなく第三者により特定の営業主体の営業であることを示す表示として用いられた結果、その表示として広く認識されるに至ったものも含まれるものと解するのが相当である。

この判決文の前には、「アメックス」と「アメツクス」、「アメツクス・インターナシヨナル」を比較して、両者は外観においてきわめて類似し、称呼において同一であり、全体としても類似すると認められる、と判断しています。

また原告と被告の業務が重ならないから、原告の営業上の利益が害される恐れはない、という被告の主張に対しては、

原告表示(アメックス)が原告の営業であることを示す表示として日本国内において広く認識されるに至っていることからすれば、被告が自己の営業を表示するものとして「アメツクス・インターナシヨナル」「アメツクス」「アメックス」などを使用する行為は、取引者、需要者において、原告本人、または原告と緊密な関係にある会社の営業であるとの誤認混同を生ぜしめるものといわなければならない。
こうした誤認混同を生ぜしめた場合には、原告の営業上の利益が害されるおそれがあるものというべき。


論点
この判決は、両者の表示の類比や、業種が異なるという問題よりは、営業主体の本人がまだ使用していなかった表示にも、第三者の使用によって周知性を認めた、という点で評価されています。