「緑色の袋が特許になった!」

「緑色の袋」という、ほぼそれだけの限定で特許(特許6461407)になったケースをご紹介します。
普通では困難な発明がなぜ特許になったのか?
「効果」の説明が十分だったから、と思われます。

  1. 発明の背景
    この発明は大型の「工事用袋体」です。
    図のように、災害発生時の復旧工事、あるいは仮設工事に積み上げて使います。
    「大型」というのは封入した土砂が約2トン、人力では扱えません。
  1. 発明の構成
    特許になった発明の請求項の記載はほぼ下記のとおりです。
前提条件 大型土のう用の土木工事用袋体である。
織地を用いた袋本体20と、
袋本体20を吊るための織地を用いた吊りベルト30とを具備する。
吊りベルト30の一部に複数の吊り手31を形成してある。
着色 袋本体20および吊りベルト30の全体が緑色系に着色してある。
紫外線吸収剤 袋本体20および吊りベルト30を構成する織地の原糸が同一の着色糸。紫外線吸収剤または反射剤を含んでいる。
  1. 拒絶の理由
    審査の段階では次のような文献が引用され、拒絶が通知されました
[引用文献1]
フラットヤーンを、一方は黒色、他方を緑色に着色することは公知である。 色彩の特定は、デザインのバリエーションに過ぎず、進歩性はない。
[引用文献2]
袋全体を緑色にすることは周知技術でもある。
  1. 意見書での反論
    拒絶理由を読むと「おっしゃる通り」と感じます。しかし各構成要素とその効果を組み合わせて意見書を提出しました。以下は意見の根拠とした「効果」です。
耐久性 緑色系の袋体は黒色の袋体と比べて紫外光と可視光の吸収性が低い。 そのため、緑色系の袋体は炎天に晒されても素材温度の上昇を低く抑制することができる。 その結果、素材に多量の耐熱剤を混入しなくとも温度劣化の影響が少なくて済むので、安価で温度劣化に対する耐久性が向上する。
鳥類による被害を避ける 過去の袋体の損傷事例では、小動物のうちカラス等の鳥類によるものが最も多かった。 その点、カラスの場合の忌避色である緑色系の色に着色すると、カラス等の鳥類が近づかず、袋本体だけでなく吊りベルトについても嘴や鋭利な爪で傷を付けられることがない。 したがって、小動物の損傷に起因した袋本体の破損や吊りベルトの破断を引き起こす危険性が低くなる。 緑色系の色にはカラス等の鳥類に対して猛毒であるヒ素成分の混在を誤認識させているものと推測される程度で、緑色系の色と鳥類の忌避効果についての因果関係は明確に解明されてはいないが、袋体を緑色系とすることで、カラスに対して忌避効果のあることは実証実験等で確認済みである。 このように、袋体を緑色系にするだけで、小動物による損傷被害に起因した袋体の耐久性が向上する。
悪印象を払拭 一般に放射性除染物質の専用袋は黒色袋であるという先入観が広がっている。
しかし袋体を緑色系で着色することで、そのような悪印象を払拭できて、袋体を見る者の不快感を緩和できる。

景観への配慮

緑色系の袋体は周囲の景観に馴染みやすく、緑化の印象を与えることができる。
例えば複数の大型土のうを積み上げて盛土堤体や擁壁を構築した場合には、袋体自体が盛土堤体や擁壁の露出面が疑似緑化面となる。 したがって緑の多い山間部の現場で使用した場合に、袋体が緑色系であるので周囲の景観と馴染み易く、人通りの多い市街地で使用した場合も周囲の景観と馴染み易い。
  1. 教訓
    出願時に、すぐれた「効果」をくどいほど記載しておきました。
    そのため反論がスムーズに認められ、その結果、ほぼ色彩の限定によって出願から7か月という短期間で特許されたのでした。
    山口特許事務所では発明者様とのインタビューで根ほり葉ほり聞き出します。ご当人が気づいておられなかったことを掘り起こす場合も。
    効果の強調は大切ですね。

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