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不正競争防止法


ストラップ付きタッチペン事件

「ありふれた形態」とは?
(H24.12.25 判決 東京地裁 平成 23 年(ワ)第 36736 号)

訴えたキーズファクトリーのタッチペン 訴えられたゲームテックのタッチペン
訴えたキーズファクトリーのタッチペン 訴えられたゲームテックのタッチペン
(訴訟の対象物その物ではなく、両社の同種の製品)


[事件の経緯]
訟えを起こした株式会社キーズファクトリーは、子供用玩具の開発や販売等を行う会社です。
平成20年12月18日から、「ニンテンドーDSi」専用のコイル状ストラップ付きタッチペンを、平成22年4月17日から「ニンテンドーDSi LL」専用のコイル状ストラップ付きタッチペンを、それぞれ販売しています。
事件の経緯

訴えを受けた株式会社ゲームテックは、テレビゲーム機及びその関連機器類のハードウェア・ソフトウェアの開発や販売等を行う会社です。
平成22年6月12日から、「ニンテンドーDSi」用及び「ニンテンドーDSi LL」用のコイル状ストラップ付きタッチペンを販売しています。

両社の商品は、タッチペンをコイル状ストラップを付けたままゲーム機本体への収納ができる機能が共通しています。
キーズファクトリーは、ゲームテックのタッチペンはわが社のタッチペンの形態を模倣したものだから、そのタッチペンの販売は不競法2条1項3号の不正競争行為に当たる旨を主張し、損害賠償を求めました。


[キーズファクトリーの主張]
不競法2条1項3号は、「他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為」を不正競争としています。

キーズファクトリーは、両社のタッチペンの部位を特定し、デザインの共通点と相違点を並べました。
(ここでは、主な相違点のみを列挙します。)
主な相違点
@ タッチペンの寸法が異なっている点。
A コイル部の長さが異なっている点。
B 滑り止め部の形状が異なっている点。
(以下、「相違点@」「相違点A」などという。)

その上で、ゲームテックのタッチペンの形態は、キーズファクトリーのタッチペンの形態と実質的同一と主張しました。
ゲームテックタッチペンとキーズファクトリーのタッチペンの形態は、タッチペンの寸法、コイル部の長さ及び滑り止め部の具体的形態を除くと、その形態はほぼ一致している。
そして、まず、タッチペンの寸法の差異については(相違点@)、形態の実質的同一性に影響を与えない微差である。
次に、コイル部の長さについては(相違点A)、形態の実質的同一性の範囲内にあるというべきである。
さらに、滑り止め部の具体的形態については(相違点B)、その滑り止め部の形態としてはありふれたものである。
したがって、上記差異を考慮しても、ゲームテックのタッチペンとキーズファクトリーのタッチペンの形態は、実質的に同一であるというべきである。


[ゲームテックの反論]
ゲームテックはこれに対し、キーズファクトリーのタッチペンの形態は「ありふれた形態」であり、不競法2条1項3号の規定により保護される「商品の形態」ではないと反論しました。
その反論の根拠として、同業他社のタッチペン、および一般消費者が公表したタッチペンの情報を集めてそれと比較しました。
ゲーム機本体に収納可能なタッチペンをコイル状ストラップと結合させた商品は、キーズファクトリーの商品が発売される平成19年12月6日より前から、複数の同業他社により販売され(以下1a〜cがその証拠)ていた。
さらに一般消費者も自ら製作してインターネット上で公表していた。(以下2a〜fがその証拠)
したがって、キーズファクトリーのタッチペンの形態は、市場において一般的に見受けられる同種の商品が通常有するところのごくありふれていて特段これといった特徴のない形態、いわゆる「ありふれた形態」であって、不競法2条1項3号の規定により保護される「商品の形態」に該当しない。
1 同業他社のタッチペン
a) 「収納タッチペンセット」
平成18年9月11日、株式会社コロンバスサークルが販売を開始した。
b) 「ニンテンドーDSシリーズ用伸びるストラップ付タッチペン」
平成19年4月17日、ロアス株式会社が販売を開始した。
c) 「ストラップ付リトラクタブルミニスタイラス」
平成19年9月5日、「モバイルプラザ」が店頭販売及びオンラインショップにおいて販売を開始した。
2 一般消費者が公表したタッチペン
a) 平成18年2月12日に、「ザ・携帯電話のび〜るストラップ」とタッチペンを結合したものが公表されている。
b) 平成18年8月6日に、「ニンテンドーDS」用のタッチペンとスパイラルコードを結合したものが公表されている。
c) 平成18年9月9日に市販の「タッチペンDSロング」とコイル状ストラップを結合したものが公表されている。
d) 平成18年9月20日に、スタイラス(ペン)の端に穴を開け、「のびるストラップ」と結合したものが公表されている。
e) 平成18年11月5日に、スタイラス(ペン)と「カールコードストラップ」(コイル状ストラップ)を結合したものが公表されている。
f) 平成19年10月28日に、市販の「サイバーガジェット製CYBE・メタルタッチペン(DLite専用)」と市販の「のび〜るストラップ」とを結合したものが公表されている。

ゲームテックの反論
[地裁の判断]
地裁はまず、不競法2条1項3号と「ありふれた形態」の意義を明らかにしました。
・不競法の原則。
不競法2条1項3号の規定の趣旨は、他人が資金、労力を投下して商品化した商品の形態を他に選択肢があるにもかかわらずことさら模倣した商品を、自らの商品として市場に提供し、その他人と競争する行為は、模倣者においては商品化のための資金、労力や投資のリスクを軽減することができる一方で、先行者である他人の市場における利益を減少させるものであるから、これを「不正競争」として規制することとしたものである。

・例外。
しかし他方で、商品全体の形態が同種の商品と比べて何の特徴もないありふれた形態である場合には、特段の資金や労力をかけることなく作り出すことができるものであるから、同号により保護される「商品の形態」に該当しない。

次に、「ありふれた形態」の判断基準を表明しました。
・全体観察をすべき。
商品の形態が、不競法2条1項3号による保護の及ばないありふれた形態であるか否かは、商品を全体として観察して判断すべきである。

・個別の観察は適さない。
全体としての形態を構成する個々の部分的形状を取り出してそれぞれがありふれたものであるかどうかを判断し、その上で、ありふれたものとされた各形状を組み合わせることが容易かどうかによって判断することは相当ではない。

そして、キーズファクトリーの商品の形態と、ゲームテックが「ありふれた形態」の証拠として引用した公知のタッチペンの形態を比較しました。
ゲームテックが挙げる同業他社のタッチペン(上記1a〜c)の形態は、いずれもキーズファクトリーのタッチペンの形態と全体としての形態が相違する。
だから上記各タッチペンがキーズファクトリーのタッチペンの販売開始前から市場に存在していたからといって、キーズファクトリーにタッチペンの形態が同種のタッチペンと比べて何の特徴もないありふれた形態であることの根拠となるものではない。

インターネット上で公表されていた一般消費者の各タッチペン(上記2a〜f)の形態についても同様であって、それが公表されていたからといって、キーズファクトリーのタッチペンの形態が同種の商品と比べて何の特徴もないありふれた形態であることの根拠となるものではない。

訴えられたゲームテックがせっかく集めた証拠なのに、まったく反対の解釈、すなわち「ありふれた形態ではない」、という根拠に使われてしまったのです。
その結果、地裁は以下のように判断しました。
以上によれば、キーズファクトリーのタッチペンの形態は、不競法2条1項3号の規定により保護される「商品の形態」に該当する。

再度、両者を比較しますので見直してください。
訴えたキーズファクトリーのタッチペン 訴えられたゲームテックのタッチペン
訴えたキーズファクトリーのタッチペン 訴えられたゲームテックのタッチペン

したがって、キーズファクトリーのストラップ付きタッチペンは「ありふれた形態」ではなく、不競法2条1項3号の規定により保護される「商品の形態」に該当するという結論です。

この他、両社のタッチペンの形態は実質的同一であること、キーズファクトリーのストラップ付きタッチペンは商品の機能を確保するために不可欠な形態に該当しないことが認められました。
ゲームテックの商品の販売は不競法2条1項3号の不正競争行為である旨の判決が確定し、ゲームテックはキーズファクトリーに対し、「296万7416円及びこれに対する平成23年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え」という命令を受けました。


[弊所の見解]
この事件で、不競法2条1項3号の「ありふれた形態」に該当するかの判断は、商品を構成する物品ごとの形態ではなく、商品全体としての形態を基準に行うことが明確になりました。
タッチペン、ストラップそれぞれのデザインがありふれていても、組み合わせた「ストラップ付きタッチペン」の状態がありふれたデザインでなければ、不競法の保護の対象となるのです。
不競法2条1項3号の「商品の形態」の解釈が明確になった、重要な判例です。


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