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レールデュタン事件

混同のおそれとは
最高裁平成12年7月11日判決 平成10年(行ヒ)85号審決取消請求事件

ニナリッチの使用商標 ニナリッチの登録商標
ニナリッチの使用商標 ニナリッチの登録商標

ニナリッチの商標
ニナリッチは、旧第四類「香料類、その他本類に属する商品」を指定商品とする「L'AIR DU TEMPS」の標章について、商標登録第661424号商標(商公昭39-021077)として設定登録を受けていました。(ニナリッチの登録商標)
登録を受けていただけではなく、同社の多数の香水の一つの「L'Air du Temps」及び「レール・デュ・タン」を販売していました。(ニナリッチの使用商標)

マドラスの登録
ニナリッチの登録(昭39年12月12日)の後の昭和63年12月19日に、マドラス株式会社は「レールデュタン」の商標を、「装身具、その他本類に属する商品」として登録第2099693号商標(商公昭63-1100)として登録されました(マドラス商標)。
両者を並べてみましょう。

ニナリッチ商標 マドラス商標
ニナリッチ商標 マドラス商標


審判での争い
そこで、ニナリッチはマドラスに対して、マドラス商標の指定商品中の「化粧用具、身飾品、頭飾品、かばん類、袋物」について商標法4条1項15号を理由に無効審判を請求しました。しかし特許庁は平成9年2月24日に「審判請求は成り立たない」との審決をしました。
その理由は、ニナリッチの販売している香水が63種類以上もあったことによります。
そのように多種類の香水の名声は、その集合体である「香水」に収斂・特定されることによって形成・維持されている、というのです。
すると今回の問題の「レールデュタン」はニナ・リッチの使っている個別のマークの一つにすぎないのだから、「香水」とは非類似の「化粧用具、装身具」などに使用されたときにまで混同を生じるおそれはない、との判断でした。そこまでは広げすぎだよ、ということです。

高裁での争い
そこで、ニナリッチは審決の取消しを求めて出訴しましたが、第一審判決(東京高判平10.5.28)もニナリッチの請求を棄却しました。
その理由として、まず「香水」についてはその著名性は認めました。
わが国の香水を取り扱う業者や高級な香水に関心を持つ需要者間においては「L'Air du Temps」又は「レール・デュ・タン」の商標がニナリッチの香水のうちひとつを表すものとして著名であったものと推認される。

しかし「化粧用具」や「身飾具」などについては別の判断でした。
しかし、化粧品市場において昭和61年当時既に一般的に極めて著名であったものとまでは認められず、これを「化粧用具、身飾品、頭飾品、かばん類、袋物」に使用した場合に、ニナリッチ又はニナリッチとなんらかの関係を有する者の取扱いにかかる商品であるかのごとく出所について混同を生じる虞があったとまでは認められない


最高裁の判断
そこでニナリッチが上告しました。以下がその最高裁の判断です。
  1. 15号の趣旨は
    まず商標法の「他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標」(4条1項15号)について以下のように説明しました。
    その商標をその指定商品に使用したときに、その商品が他人の商品に係る者であると誤信されるおそれがある商標のみならず、その商品が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(以下「広義の混同を生ずるおそれ」という。)がある商標を含むものと解するのが相当である。

    その理由は、
    なぜなら同号の規定は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及びその表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とするものである。
    その趣旨からすれば、企業経営の多角化、同一の表示による商品化事業を通して結束する企業グループの形成、有名ブランドの成立等、企業や市場の変化に応じて、周知又は著名な商品等の表示を使用するものの正当な利益を保護するためには、広義の混同を生ずるおそれがある商標をも商標登録を受けることができないものとすべきであるからである。

  2. 「混同のおそれある商標」とは
    それを受けて、「混同を生ずるおそれ」の有無の判断基準を次のように整理しました。

    1. その商標と他人の表示との類似性の程度、
    2. 他人の表示の周知著名性及び独創性の程度、
    3. その商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度、
    4. 商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情など。
    5. それらに照らし、その商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである。

  3. では本件の場合は?
    1. 外観や称呼は?
      マドラス商標は、ニナリッチが実際に使っている商標のうち「レール・デュ・タン」の商標とは少なくとも称呼において同一であって、外観においても類似している。
      しかも、ニナリッチの登録商標の表記自体及びその指定商品からみて、ニナリッチの登録商標からフランス語読みにより「レールデュタン」の称呼が生ずるものといえるから、マドラス商標は、ニナリッチが登録している商標とも称呼において同一である。

    2. 著名性は? 独創性は?
      ニナリッチの使用商標及びニナリッチの登録商標は、香水を取り扱う業者や高級な香水に関心を持つ需要者には、ニナリッチの香水のひとつを表示するものとして著名であり、かつ、独創的な商標である。

    3. 商品の共通性は?
      マドラス商標の指定商品のうち無効審判を請求された「化粧用具、身飾品、頭飾品、かばん類、袋物」と「香水」とは、主として女性の装飾という用途において極めて密接な関連性を有しており、両商品の需要者の相当部分が共通する。

  4. そして結論です
    以上の事情に照らせば、マドラス商標を「化粧用具、身飾品、頭飾品、かばん類、袋物」に使用するときは、その取引者及び需要者において、その商品がニナリッチと前記のような緊密な関係にある営業主の業務に係る商品と広義の混同を生ずるおそれがあるということができる、という判決でした。
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