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モトローラ、商標の類似についての審決取消事件


東京高裁で具体的な取引の実情に基づいて事実認定した結果、特許庁で「非類似の商標である」とした審決を、「類似の商標である」として取り消した事例を以下に紹介します。

事件の発端
資本金12億4千万ドル、年間売り上げ高82億5千万ドル、従業員数約10万人。モトローラは、アメリカ大手企業百社の中でも上位にあり、世界百カ国以上でエレクトロニクス事業を営む著名な企業です。
平成3年1月11日、モトローラは三岡電機製作所の持つ商標に対し無効審判を請求しました。「MOTOROLA」の頭文字に「M」に由来する自社の商標と三岡電機の商標が、外観上類似している上に、「マルエム」という共通する呼称を持つという主張です。
平成6年1月13日、特許庁の段階では三岡が勝ちました。モトローラの商標は「M」をモチーフにしたものではあるが、図案化された単なる幾何図形として認識されるので、特定の呼称、観念は生じない。だから、両者は非類似の商標である、という理由でした。

モトローラの迫撃
この特許庁の審決を不服として、モトローラは東京高裁に審決取消の請求をしました。その結果、次の3点について審議されました。

  1. 呼称
    モトローラは当業者に対して、自社の商標についてアンケート調査をしました。47社中19社が「マルエム」と呼んでおり、9社が「マルエム」とは呼んでいないが、そのように呼称することが可能だとの回答をしており、両者を合わせて28社(59.6%)に達しました。よって両者の商標は呼称を同一とする類似する商標である、と主張しました。
  2. 外観
    特許庁の審決では、三岡電機の商標は「全体として力強い印象を与える」とし、モトローラの商標は「全体として繊細な印象を与える」とし、両商標は外観上互いに明確に区別できる、としました。しかしこうした印象というのは、極めて抽象的な感性にすぎないのに、審決はこれを主な理由として両商標が非類似であると判断しており不当であると、モトローラは主張しました。
    更に、モトローラの商標のバッテリーチャージャー、プリント基盤、半導体での使用様態と、三岡電機の商標のバッテリーチャージャー、プリント基板での使用様態をみると、両商標の識別は困難だとも主張しました。半導体では商品が非常に小さいため、商標も非常に微小となり、両商標の識別は一層困難だからです。

    モトローラは当業者に対して、両商標の外観の類似性のアンケート調査をしました。それによって過半数の会社が出所の混同を起こしていることがわかりました。なかには、「モトローラの海賊版だと思う」という回答もありました。このように、両商標は外観が類似していることで出所の混同を起こしている、と主張しました。
  3. 取引の実情
    三岡電機の商標は、携帯電話、通信機器、コンピュータ、AV機器等の電源及び半導体に使用されています。一方のモトローラの商標も携帯電話、通信機器、コンピュータ、ポケットベル、半導体等に使用されています。両商標の使用される商品は極めて類似しています。
    モトローラは昭和37年に商標の使用を開始して以来、今日まで日本を含む世界百カ国以上で、この商標を使用してきました。その間には、新聞、雑誌等で商標の入った広告を幅広く展開してきました。
    また、品質管理を通じて国際競争力の向上を目的とした、マルコム・ボルドリッジ全米品質管理賞を1988年受賞し、その製品の品質は高く評価され、これが報道されたことによって、当業者のみならず一般需要者にもその名は知られています。
    従って三岡電機の商標がその指定商品に使用されると、その出所がモトローラであると誤認され、出所の混同を生ずる、と主張しました。

    判決では、「両商標は呼称上及び外観上類似し、商品の出所を混同するおそれのある商標である。比類であると誤って判断した特許庁の審決は、違法として取り消されるべきである」と、しました。

商標類似の判断
商標の類似とは、対比する両商標が商品または役務に付されたとき紛らわしくて出所の混同を生じることとされています。通説判例は、その判断手法として、両商標を外観、呼称、観念の各観点から検討して、そのいずれかにおいて紛らわしいときは、両商標は類似であると判断しており、その場合「商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的取引状況に基づいて判断する」ものとされています。

この判決と特許庁の判決とでは結論が異なったのは、この具体的取引状況に基づいて事実認定をした結果であり、商標の類比判断の事例として、参考になるものと思われます。

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