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特許・実用新案


並行輸入品の差止めができるか
BBS並行輸入事件

最高裁:平成7年(オ)第1988号

高裁までの経過
ドイツの会社であるBBS社は、自動車用アルミホイールについてドイツと日本で特許権を持っていました。
日本での特許権は第1.629.869号です。
(当時は特許公報は発行されず公告公報がそれに代わりました。)
特公平02-1.681公報
ところで特許権者のBBS社からドイツで正規に特許製品を購入した輸入業者が日本へその製品を輸入して販売しました。
下図は事件の対象物ではありませんが、BBS社が販売している自動車用アルミホイールの一例です。
中心部にBBS社の文字が見えます。
この並行輸入業者の輸入行為について、BBS社は自社の日本の特許権の侵害であると主張して提訴しました。
第一審(東京地裁)では、特許権者であるBBS社の主張どおり差止請求が認められました。
しかしその控訴審である東京高裁では、並行輸入業者に対する差止請求が否定されました。
そこで特許権者のBBS社が最高裁に上告して争ったのが本件です。

なぜ並行輸入が問題に?
「並行輸入」とは、海外で適法に売買された外国企業の製品(真正商品)を日本に輸入することです。
元来、輸入は自由なはずですが、特に正規の代理店を通さないで輸入する場合が問題になります。
というのは、一般に並行輸入品の方が正規の代理店を通した製品よりも安いことが多いからです。
代理店では長年の維持費や広告宣伝費がかかっているから、ゲリラ的に輸入する業者の製品より高くなるのは当然です。
しかし購入する需要者の立場からすれば、並行輸入した製品は、偽物ではなく真正商品なのだから、安ければ手を出したくなるでしょう。
そこで、その製品について外国で特許権を取るのと同時に日本でも特許権を確保しておき、外国の特許権者や代理店が、並行輸入を阻止するための手段として使うことになります。

まず国内の消尽論
最高裁は、東京高裁の結論を支持する判決を出したのですが、その経過を説明します。

まず国内での取引における消尽論を説明しました。
特許権者又は実施権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合には、当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや特許権の効力は、当該特許製品を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等には及ばないものというべきである。

なぜ消尽するのか、その理由は詳しく述べてありますが、本判決の中心ではないので省略します。

では輸入の場合は?
以上は、特許権と国内での製品の流通と関係でしたが、次に輸入の場合について検討しました。

二重の利得を得ているか?
まず、我が国でも特許権者である人物が、国外で特許製品(真正商品)を第三者に譲渡してそれが我が国に輸入された場合には、直ちに国内の場合と同列に論ずることはできない、と認めました。
その理由の一つは「二重の利得」に関するものです。

特許権者は、
  1. 特許製品を譲渡した地の所在する国において必ずしも我が国において有する特許権と同一の発明についての特許権(対応特許権)を有するとは限らない。
  2. 対応特許権を有する場合であっても、我が国において有する特許権と譲渡地の所在する国において有する対応特許権とは別個の権利である。
  3. これからすれば、特許権者が対応特許権に係る製品につき我が国において特許権に基づく権利を行使したとしても、これをもって直ちに二重の利得を得たものということはできない。
従来から国際的に、ある外国での特許権者と同一人物が他の国でも特許権者である場合に、特許権者が製造した製品を当該の他の国に輸出した場合に、その国での差し止めを認めない、とされていました。
その根拠が「二重利得」を許さないという思想でした。

しかしこの判決で、外国において特許権で利得を得ていたとしても、日本でそれとは別に利得を得ること(二重利得)は不都合ではない、ということになりました。

すると、並行輸入の場合は、外国での特許権者と同一人物のもつ日本での特許権は消尽しない、それなら特許権は生きているのだから、特許権者の差し止めを認めてもよいということになります。

国際取引の観点からは?
次に国際取引について次のように述べました。

国際取引における商品の流通と特許権者の権利との調整について考慮するに、現代社会において国際経済取引が極めて広範囲、かつ高度に進展しつつある状況に照らせば、我が国の取引者が国外で販売された製品を我が国に輸入して市場における流通に置く場合においても、輪入を含めた商品の流通の自由は最大限尊重することが要請されているものというべきである。

国際流通の自由を最大限に尊重するならば、外国における特許権者が販売した真正商品については、同一人物である日本国内の特許権者の権利行使は認めるべきではない、差止めは認められない、ということになります。

黙示の許諾からは?
次の黙示の許諾について次のように述べました。

国外での経済取引においても、一般に譲渡人は目的物について有するすべての権利を譲受人に移転し、譲受人は譲渡人が有していたすべての権利を取得することを前提として、取引行為が行われるものということができる。

前記のような現代社会における国際取引の状況に照らせば、特許権者が国外において特許製品を譲渡した場合においても、譲受人又は譲受人から特許製品を譲り受けた第三者が、業としてこれを我が国に輸入し、我が国において業としてこれを使用し、又はこれを更に他者に譲渡することは当然に予想されるところである。

外国の特許権者は、日本への輸入も視野に入れていたはずだし、輸入業者もそれを前提に買い取ったはず。
だとしたら同一人物である日本国内の特許権者の権利行使は認めるべきではない、差止めは認められない、ということになります。

消極的な判断
上記のように利得の二重取り、国際流通、あるいは黙示の許諾のいずれの理由づけを採用するか、で日本での特許権者の差し止めを認めるか否か、その結論が変わってきます。
最高裁では、次のような条件を付けて、「その条件を除いて、当該製品について我が国において特許権を行使することは許されない」という消極的な判断をくだしました。
「その条件が整えば特許権の行使を許す」、とまでは言っていないのです。

その条件とは
以上の点を勘案して条件を整理しました。
すなわち、日本の特許権者(またはこれと同視し得る者)が、国外で特許製品を譲り渡した場合を二つに分けました。
  1. 特許権者から直接譲り受けた者
    特許権者は譲受人に対しては
    「当該製品について販売先ないし使用地域から我が国を除外する」
    旨を譲受人との間で合意した場合(売買契約など)を除き、当該製品について我が国において特許権を行使することは許されないものと解する。

    国外で特許権者と譲受人が合意して当該製品を譲り渡しているところ?

  2. 譲受人からさらに譲り受けた者
    譲受人から特許製品を譲り受けた第三者及びその後の転得者に対しては、譲受人との間で(1)上記の合意(売買契約書など)をし、(2)特許製品にこれを明確に表示した場合(製品にラベルを張って明記するなど)を除いて、当該製品について我が国において特許権を行使することは許されないものと解する。

    このように「・・・を除いて」「・・は許されない」という判断でした。

その理由は
その理由は以下の通りです。

  1. まず「黙示の許諾」についてです
    前記のように、特許製品を国外において譲渡した場合に、その後に当該製品が我が国に輸入されることが当然に予想される。
    そうであれば、特許権者が留保を付さないまま特許製品を国外において譲渡した場合には、譲受人及びその後の転得者に対して、我が国において譲渡人の有する特許権の制限を受けないで当該製品を支配する権利を黙示的に授与したものと解すべきである。
  2. 次に特許権者の保護についてです
    特許権者の権利に目を向けるときは、特許権者が国外での特許製品の譲渡に当たって我が国における特許権行使の権利を留保することは許されるというべきであり、特許権者が右譲渡の際に譲受人との間で(1)特許製品の販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を合意し、(2)製品にこれを明確に表示した場合には、転得者もまた製品の流通過程において他人が介在しているとしても、当該製品につきその旨の制限が付されていることを認識し得るものであって、右制限の存在を前提として当該製品を購入するかどうかを自由な意思により決定することができる。
  3. 特許権者の範囲は?
    子会社又は関連会社等で特許権者と同視し得る者により国外において特許製品が譲渡された場合も、特許権者自身が特許製品を譲渡した場合と同様に解すべきである。
  4. 外国での特許の有無は?
    特許製品の譲受人の自由な流通への信頼を保護すべきことは特許製品が最初に譲渡された地において特許権者が対応特許権を有するかどうかにより異なるものではない。
    このように外国での特許の有無に無関係であることを明確にしました。

本件の場合
以上の論点を本件に当てはめて次のように判決しました。

本件のアルミホイールは、特許権者がドイツにおいて販売したものである。
そして特許権は販売に際して、販売先ないし使用地域から日本国を除外する旨を、譲受人との間で合意したことがなく、そのことを製品に明示したこともない。
そうであれば、本件のアルミホイールについて、BBS社の特許権に基づいて差し止めないし損害賠償を求めることは許されない。

このように、最高裁判決は、特許製品の譲渡の際に輸出先について合意したり明示していなかった場合、特許製品の並行輸入を阻止できない、ということを明らかにしたものです。

これをそのまま、外国での譲渡に際して輸入先などの制限の合意をし明示をすれば日本国での特許権者の差止めが認められる、と読み替えることはできません。
なぜならこの判決で「二重利得」は認めてもよい、と判断しているように、将来どんな状況が生まれるかは不明だからです。
特許権を侵害しない基準の一部が示されただけ、ととらえるべきものです。
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