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意匠


似ていなくても侵害か?

(学習机事件)昭和 45年 (ワ) 507号

[1]学習机
主に小学生が使う学習机の意匠権の争いです。
株式会社くろがね工作所が机単体の意匠権を登録しました。(登録284.774号)
その登録を知ってか知らずか、ライバルの株式会社伊藤喜工作所が学習机の販売を開始しました。
しかしそれは机単体ではなく、机の奥に本棚を立たせたタイプでした。
さあ、これを「似てる」と言えるか? あるいは「似てないけれど侵害」と言えるか? が争われました。

左:くろがねの意匠権 右:伊藤喜の製品

[2]似ていない
まず似ているかどうかの議論です。
結論は、伊藤喜の学習机はくろがねの意匠とは似ていない、という判断されました。
似ていればその段階で侵害と言えるのですが、意匠権者にとっては残念なことに、判決では次のように述べています。
一方は単なる机であり、他方は本棚を結合した一個の机である。
よって両者の物品には同一性がなく、異なる審美感を起こさせる。
だから意匠全体を比較すれば伊藤喜の学習机は、くろがねの意匠とは似ていない、と言わざるをえない。

[3]意匠権の「利用」とは
次の争点は意匠の「利用」です。
判決では「意匠の利用」について、要約すると次のように定義しています。
ある意匠(この場合は学習机という製品のこと)が、(1)他人の登録意匠の全部を、(2)その特徴を破壊することなく、他の構成要素と区別しうる態様で含んでいる場合であって、その結果、(3)全体としては登録意匠とは似ていない別の一個の意匠となる場合であって、かつ、(4)その意匠の製品を製造すると必然的に登録意匠を実施する関係にある場合をいう。

では、「意匠の利用」はわかったとして、2件の意匠が「利用関係」にある場合どのように取り扱うのでしょう?
その調整が意匠法26条にあります。そこでは、後願の意匠権は先願の排他権に対抗できない、と定めています。
この26条は、先願の登録意匠と後願の登録意匠との調整の規定ですが、登録意匠と登録されていない製品の意匠との調整にも成立します。

[4]机部分だけを比較する
では伊藤喜の学習机はどう判断されるでしょう。
まず、伊藤喜の学習机は、「机部分」と「本棚部分」とを結合した製品であって、外観上は机部分と本棚部分とははっきりと区別できることを確認しました。

左:机部分 右:本棚部分

次に、このように区別した「机部分」だけについて、くろがね意匠と比較しました。
すると、くろがねの意匠と伊藤喜の机の部分には相違点があることを認めつつ、しかしその相異点は全体からみれば微細な差異であり、これらの差異があるからといって伊藤喜の机部分がくろがねの登録意匠と異なつた印象を与えるものとは認められない、としました。
よって、机部分だけを見た場合に、伊藤喜の机部分はくろがね意匠と似ている、との結論になります。

[5]利用関係の成立
このように、伊藤喜の学習机は、(1)くろがね意匠の特徴を破壊することなくそのまま包含しており、(2)しかも伊藤喜の学習机は机部分が本棚部分と外観上はっきりと区別できます。
その結果、(3)伊藤喜の学習机を製造するときは必然的にくろがね意匠を実施する関係にあることが明らかであり、(4)結局、伊藤喜の学習机は、くろがね意匠に類似する意匠(「類似」としたのは、ちょっと違いあるから)を利用するものである、としました。
よって、伊藤喜の学習机の製造、販売はくろがね意匠権を侵害する、という結論です。

このように、意匠権の方は「机単体」、製品の方は「机と本棚」という関係で、全体としては似ていない、けれども意匠権の侵害になる、という場合もあるのですね。



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